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福岡高等裁判所 昭和39年(ネ)614号 判決

被控訴人 豊和相互銀行

理由

訴外大津義夫が控訴人を振出人とする振出日昭和三五年八月二二日満期同年一〇月二四日、金額一〇〇万円、振出地支払地とも大分市支払場所株式会社豊和相互銀行という約束手形を被控訴人あてに振出し交付したことは、控訴人の明らかに争わないところであるから自白したものとみなす。

よつて、訴外大津義夫が控訴人を代理して右約束手形を振出し交付する権限を有したかどうかを調べてみると、

(証拠)を綜合すれば、訴外大熊商事有限会社は金融業、不動産売買及び貸家業を営み控訴人がその代表取締役その子訴外大津義夫が専務取締役であるが、同会社は主として大津義夫が発起主宰して設立した関係もあつて、代表取締役である控訴人は同会社の業務の執行を挙げて訴外大津義夫に一任し、同会社の運営上特に六ケ敷い問題が生じて同訴外人から協議を受け意見を述べるなどの場合の外は、会社の運営業務の執行に関与せず、会社資金の調達、手形の振出しなどの場合を含めて、代表取締役たる控訴人の名義を自由に使用して処理することを、同訴外人に包括的に委せていたのはもち論、会社の資金調達上必要があるときは、同訴外人において控訴人を代理して同人個人の財産を担保に供し、控訴人個人の名義で手形を振出し交付して融資を受ける包括的権限を同訴外人に授権していたこと、同訴外人は訴外会社の家屋(貸家)建築資金に供するため、控訴人を代理し借主名義を控訴人とし同訴外人において連帯保証債務を負担し、控訴人の記名押印を代行して前示内容の約束手形(甲第一号証)を振出して被控訴人に交付し、被控訴人から金一〇〇万円を約束手形の満期に支払いがない場合の遅延損害金日歩五銭の約定で借用し、これを担保するため、昭和三五年八月二三日控訴人所有の大分市大字大分字東大坪二、二九七番地の一、宅地一五六坪三合六勺につき債権元本極度額金一〇〇万円とする根抵当権を設定して同月二六日その登記を経た(甲第八号証)が大津義夫が控訴人を代理して右金員を借入れ根抵当権を設定することについては、(大津義夫に対する前示包括的授権の外に)予め控訴人において特に承諾していたことの各事実を認めることができる。この認定に反する甲第七号証、原審証人大津義夫の証言、控訴本人尋問の結果は、前挙示の証拠と対照し信用しがたいし、他にこの認定を動かす証拠はない。

(証拠)によれば、甲第一号証の約束手形に押されている控訴人名下の印鑑は、控訴人が大分市長に届出た印鑑ではなく、大熊商事有限会社代表取締役として使用する場合の印鑑(円形の印で大津熊市の四字が刻まれ前記届出印鑑に酷似する)であるけれども、(この認定に反する前示後藤辰夫植木清の証言は採用できない。)前認定のとおり訴外大津義夫が控訴人の代理人として控訴人の名義をもつて甲第一号証の約束手形を振出し交付する権限を有する以上、特段の事情のないかぎり、控訴人名下に押印する印鑑は必ずしも控訴人の届出印たることを必要せず大熊商事有限会社代表取締役としての控訴人が、その資格において使用するための印鑑でも差支えないと解すべきであるから、控訴人は甲第一号証の振出人としての責を免れることはできない。被控訴人が本件約束手形を満期に、支払場所に支払いのため呈示したことは甲第一号証に徴し明らかであり、また右手形金及び遅延損害金のうち、主張のように内入れ弁済を受けたことは被控訴人の自認するところであるから、控訴人は被控訴人に対し、金四九四、七〇一円及び内金五五、五〇〇円に対する昭和三九年五月一三日から完済にいたるまでの日歩五銭の割合による遅延損害金を支払う義務があるので、これが支払いを求める被控訴人の請求を認容すべく、同旨の原判決は結局相当で控訴は理由がない。

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